山梨大学と東ソー株式会社の研究グループが、新しい水溶性の導電性高分子を開発しました。
この研究成果は、ScienceAdvancesに掲載されています。
この記事は下記論文の紹介記事です。
論文:
Hirokazu Yano, et al. "Fully soluble self-doped poly(3,4-ethylenedioxythiophene) with an electrical conductivity greater than 1000 S cm−1" Science advances 5.4 (2019): eaav9492.
https://advances.sciencemag.org/content/5/4/eaav9492
プレスリリース:
https://www.yamanashi.ac.jp/wp-content/uploads/2019/04/201904111pr.pdf
白川英樹、アラン・マクダイアミド、アラン・ヒーガーによる導電性高分子の発見(2000年ノーベル化学賞)は、安価で軽量、柔軟な有機エレクトロニクスという新分野を拓き、現在、有機エレクトロルミネッセンス(EL)や有機トランジスタ、有機太陽電池等への応用が検討されています。また、“モノのインターネット(InternetofThings:IoT)”では、プリンテッドエレクトロニクスからストレッチャブルエレクトロニクス、そしてウェアラブルエレクトロニクスへと進化し、フレキシブルディスプレイやタッチパネル、ソフトセンサ・アクチュエータへの応用が期待されています。
ここで、印刷可能で高い電気伝導度を有する導電性高分子は、有機エレクトロニクスにおいて最も重要な素材(キーマテリアル)と考えられています。
既に市販されている有名な導電性高分子の一つがPEDOT:PSSです。
PEDOT:PSSは、コロイド状粒子の水分散体として市販されていますが以下の技術的問題があることが知られています。
・直径数十nmのコロイドからなり、完全には溶解していない。
・コロイド粒径以下の薄膜作製が困難。
・長期保存によりコロイドが凝集し、沈殿を生じる。
・電気伝導度は数S/cmと低く、高導電化には二次ドーパントの添加(溶媒効果)が不可欠。
これらの課題は全て外部ドーパントであるPSSに起因し、そもそもPEDOTが溶媒に全く溶けないことが原因です。
このような課題に対し、同グループは完全に可溶性の新しい自己ドープ型PEDOT(S-PEDOT)を開発しました。
電気伝導度は従来材料の場合10S/cm程度でしたが、本研究で作製した材料は100倍高い1000S/cmの達成に世界で初めて成功しました。
電気がよく流れる理由を調べた結果、導電性高分子の長さ(分子量)が長いほど高い導電性を示すことを明らかにしたとのことです。
本材料は、電気自動車やハイブリッド車に搭載される固体電解コンデンサ、新規表示素子やフラットパネルディスプレイで使用される有機エレクトロルミネッセ
ンス(EL)、次世代エネルギー素子である有機太陽電池など、軽くて柔らかく、安くて印刷可能な有機エレクトロニクスへの応用が期待できます。
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