東京大学の研究グループが銀ナノコロイドの分散安定性に関して調査し、メタノール成分が銀ナノ粒子の自己凝集を促進していたことを明らかにしました。
この研究成果は、ACS Applied Nano Materialsに掲載されています。
この記事は下記論文の紹介記事です。
論文:
Hirakawa, Yuya, et al. "Phase and Dispersion Stability of Silver Nanocolloids for Nanoparticle-Chemisorption Printing." ACS Applied Nano Materials (2019).
金属ナノ粒子液に代表されるナノ粒子やナノコロイドの懸濁液は、産業界から大きな注目を集めている材料です。
特にこれらのインクを印刷することで配線を形成する技術はプリンテッドエレクトロニクスと呼ばれ、マスクレスな点、大面積化が可能な点や真空環境などの特殊な環境を必要としない点から活用が望まれています。
このように活用が期待されているプリンテッドエレクトロニクス技術の中で、同グループが以前発表した「SuPR-NaP」技術は、銀ナノコロイド(以降AgNC)を用いて大気環境下で800nmの微細配線を実現する技術として注目を集めています。
AgNCは、室温で数カ月間維持可能な程度の高い分散安定性を持っていながら、分散剤が蒸発した後は常温環境下で容易に融合する特徴を持っています。AgNCは高い分散安定性と自己凝集が共存しているという特異的な特徴を有しているといえます。
本研究では、特に分散媒の組成に焦点を当てて、AgNCの長期的なコロイド相不安定性の起源を調べました。相分離の起源として、本発明者らは、AgNCの合成中に意図せずに含まれていた極性メタノール成分に注目し、AgNCの分散および相安定性の両方に対するメタノールの影響を調べました。まず、銀ナノ粒子(以降AgNP)の不在下での溶媒のみのオクタン/ブタノール/メタノール系の三元相図を得て、オクタンとメタノールは互いに混和性ではないが、ブタノールはオクタンとメタノールの間の緩衝剤として作用し得ることを見出しました。
分散剤が溶媒のみの系の混和性組成物であったとしても、AgNCの時間依存性相分離が極性メタノール成分を増加させることによって促進されることも見出したとのことです。
調査の結果、メタノール成分がAgNPの自己凝集を促進し、それが最終的に相分離を引き起こすことを明らかにしました。また、これらの結果から同グループは、AgNP表面周囲の濃度勾配はAgNP間に引力を生じさせ、自己凝集を誘導したと結論しています。
アルキルアミン/アルキル酸でカプセル化されたAgNCは、基本的なコロイド科学においても、プリンテッドエレクトロニクス用途においても、ユニークで重要な材料になり得ると同グループは主張しています。
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