微小液滴デジタル制御技術を用いた塗布の基本
微小液滴を用いたデジタル制御技術の塗布の基本を紹介します。
塗布原理
微小液滴デジタル制御技術は、吐出のON/OFF信号に従い、非接触で微小液滴が空中を飛翔し、対象とする基板に着滴する技術です。
1回の吐出動作で作製された液滴は基板に着滴することで、ドット(円)を形成します。
このドットを連続してつなげることで線を、
線を複数つなげることで面を形成します。
作製されるパターンは、あくまでドットの集合体として表現されます。
この滴下した液滴の径をドット径、連続して着滴させるドット同士の間隔をドットピッチ[μm]といいます。
ドット形成概念図
ライン形成概念図
面形成概念図
ドットを滴下する間隔・・・ドットピッチ
動画 ドットピッチごとのライン形成
動画 ドットピッチごとの面形成
基板ごとの着滴径
使用する微小液滴の液滴サイズ及び基板との濡れ性によってドット径が異なります。
そのため、塗布時に設定するドットピッチは、使用する液滴サイズや基板との相性に応じて決定する必要があります。
産業応用で微小液滴デジタル制御技術を使う場合、目的に応じて様々な基板を使用します。
基板によって形成される着滴径が異なります。
着滴径は、基板が液を吸収する基板か否か、そして基板上での液の濡れ性(接触角)によって大きく異なるため、基板ごとの着滴径の把握が適切なドットピッチを選択するために重要になってきます。
接触角の違いによる着滴径の違い
動画:撥液基板・親液基板での水の濡れ広がりの違い
動画:基板ごとの水の濡れ広がりの違い
液滴は飛び散らない?
微小液滴デジタル制御技術は基本的に微小な液滴が空気中を飛翔して、基板に着滴する技術です。
手法によって詳細はことなりますが、飛翔している液滴速度は数m/s~数10m/sと早いです。
このような液滴が基板に着滴した際に、液の飛び散り現象は起こらないのでしょうか?
基本的には液の飛び散りは起こりません。
これは液滴のサイズがμmオーダーと非常に小さく、液滴が跳ね返ろうとする運動エネルギーよりも表面積を維持しようとする表面エネルギーが優位に働くからです。
微小液滴ゆえに飛び散りにくい特徴を活かし、微小領域での2種類の液の混合応用などに使われている例もあります。
液滴の着滴過程
動画:液滴の着滴過程
動画:インクジェット液滴同士の衝突過程
生産性を決めるパラメータ
生産性の高低は応用を検討する上で重要になってきます。
微小液滴デジタル制御技術を用いた塗布における生産性は、解像度、塗布速度、ノズル数、塗布方法によって決まってきます。
解像度は、目的のサンプルの作製を行う上で必要な塗布解像度を指します。
塗布速度は、使用している微小液滴デジタル制御技術の安定使用可能な塗布速度を指します。
ノズル数は、使用して制御技術の1度に制御可能な液滴数(ノズル数)を示します。
塗布方法は、目的の解像度やパターン内容を実現する上で必要な塗布方法です。
例1:インクジェットの印刷
600dpi(ドットピッチが約42μm)での印刷を、ノズルピッチが300 dpi(ノズルピッチが約84μm)のインクジェットヘッドを用いるのであれば、最低2回の塗布動作を実施することが必要となります。
例2:積層
目的とする作製物の厚みが10μmに対し、1回の印刷で実現できる厚みが1μmであれば、10回の印刷が必要となります。
目的とするパターン内容や使用する制御技術に応じて、上記値は異なります。
パターン内容が、ドットを数点打つ、とか、ラインを1本引くといった程度であれば、手法による大きな生産性の差は発生しません。
しかし、大面積の印刷等になると、手法毎の生産性の差が顕著になります。
特に微細な制御を得意とする静電方式やニードル方式、エアロゾル方式は基本1ノズルであるため、微細な印刷は可能ですが生産性は高くありません。一方で、数100のノズルが搭載されているヘッドを連結可能なピエゾ方式やサーマル方式は生産性を上げやすい方式であると言えます。
最大/最小線幅,最大/最小膜厚
方式によって詳細は異なりますが、ここでは実現可能な線幅、膜厚の最小、最大値に関して紹介します。
まず、微小液滴デジタル制御技術の線幅、膜厚の最大値は、どの方式を用いても理論上いくらでも大きく設定できます。
あくまで液を着滴させて制御しているため、着滴させるドット数を横に増やしていくことで線幅の増加が可能です。
(もちろん、機械的な制限や生産性を考慮した実用性の制限はあります。)
次の最小値に関してです。
最小な線幅は、作製可能な最小なドット径以下にはなりません。
そのため、最小の線幅≒最小のドット径となります。
ドット径は、基板上での液の濡れ性と液滴サイズによって決定します。
そのため、どれだけ濡れ性が抑えられた基板か、そしてどの程度の小滴が実現可能か、この2つが最小線幅を
決めるパラメータとなります。